短編物語とか

趣味で書き始めた短編物語とかひねくれた物の見方を書いてます。

短編「心霊スポット」

2020年5月

 俺はなんでか今、県でも有名な心霊スポットに来ている。

本当は友達と一緒にバカ騒ぎしたいのだが、あいつらはコロナにかかるのが怖いとかで家に引きこもってるらしい。家に押しかけようともしたが、なんでか気を使って一人でフラフラしているうちにこんなところに来てしまっている。まるで吸い込まれたみたいに。

 しかし、ここには結構人がいて話しかけてくれる。「ここは初めて?」とか「若いのにこんなとこ来るなんて渋いね」とか、すごく気さくに話しかけてくれる人ばかりでなんだか居心地がいい。あいつらと酒飲んで飯食って騒いでるのもいいけどここの人たちに優しくされてゆっくり話すのも悪くない気がする。

 初めてここに来てから一週間くらいが経ったけれど不思議とここに居てしまう。よっぽど居心地がいいのか自分でも驚くほどここが気に入っている。心霊スポットだっていうのに毎日同じ人がここに居て、お茶したり笑ったり、ほかの人は結婚して子供がいたり孫がいたりする人が多く、幸せそうなでもどこか悲しそうな表情で家族について話したりしていて、ヤンチャして親に迷惑ばかりかけた俺の話なんかも聞いてくれて本当に県でも有名な心霊スポットか疑ってしまうほどにいい人たちの憩いの場みたいになっている。

 もう、気付いている人もいるかもしれないが俺は死んでいる。コロナの重症患者として苦しみ以前では考えられないほどにやつれて死んでいった。ヤンチャして親に迷惑かけて、それなのに親より先に死んで…どうしようもない親不孝者の話だ。ここにきていろんな人と話して、もっと親に優しくしとけばよかった、もっともっと素直になれればよかった、結婚して孫の顔を見せてやりたかった、ごめんって謝りたかった、ありがとうって伝えたかった。そんな後悔ばっか出てきて、この世に未練を残しすぎて悔しくて悔しくてたまらない。でももう時間なんだ。このままここに残ってたらこの人たちみたく残ってたら…いるだけで心霊現象をおこしちまう悪霊になっちまうから…だから俺、もう行くよ。死んでまで人に迷惑かけられないから。死んでから言っても聞こえないかもしれないけれど、今までありがとう…母ちゃん…。

 

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*1:この話は現実とは一切関係ありません。もしも不快に思われる方がいましたら、深くお詫び申し上げます。