短編『悲劇のヒロイン』
短編『悲劇のヒロイン』
声が聞こえる。
なんだかとても懐かしくとても好きで、それでいてとても憎くて憎くてはらわたが煮えくり返るような男の声だったと思う。私はその声が誰の声かはっきり理解した。私をフったあの男だ。
別れ際、彼は私にこう告げた。「ずっと言えなかったけれど物語に出てくるような、そんな子が理想だから。だから君とはもう終わりにしたい。今までありがとう。さようなら。」 と。
身勝手で自己中心的で、それでいて理想が高くどこまでも努力ができる、そんな彼に惹かれていた。でも、魅力だと思っていたところがまさかフラれる原因になるなんて…つくづくついてないや…
どうしても彼の言葉が受け止めきれなくて、どうしても彼とやり直したくて、でも、彼のことが憎くて憎くてどうしようもなくなって。
だから私は考えることを放棄した。いや、何もかもを放棄した。投げ捨てた。
やり直したいから。でも、とても憎いから。 彼の心に残りたいから。彼に復讐がしたいから。 どちらも叶えられる方法を、私はとってしまった。
何もかもを投げ出し、文字通りその身をも投げ出して。そして車に引きずられた。
彼がどう思っているかはわからない。でも、こうして駆けつけてくれたってことは、少しは心配してくれてるってことかな?自分がフった女がこんなになって、トラウマになったかな?
ああ、最後の最後で後悔しちゃったな…
ねぇ?あなたにとって私は悲劇のヒロインになれたかな?